母という名の逝き者は

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「久しぶりだな、元気だったか」 「うん。兄さんも元気そう」 実家に帰って兄と再会したのも十年ぶりだった。 兄にだけは生存報告のために毎年年賀状を送っていた。 兄は私が母のことをどれだけ嫌いで憎んでいるのかを知っていたので、私がそういったものを送っているとか、今何処にいて何をしているのかなどの情報を母に明かしてはいなかった。 兄は私と母の間にいながら常に傍観者としての姿勢を崩さなかった。そんな兄だったから私は連絡が出来ていた。 それに私の代わりに母の面倒を見てくれることに関しては感謝の気持ちすらあった。 通夜を経て葬儀も滞りなく済ませた晩、葬儀場から実家に戻りようやくひと息ついた。 兄の奥さんが率先して葬儀関係や家の事をやってくれたので私がやることはほぼなかった。 「突然の心臓発作で明け方、ぽっくり。ある意味幸せな逝き方だったのかもな」 「……確かに、棺桶の中の母さんは穏やかな顔をしていた」 兄とふたり、実家の居間でぽつりぽつりと話をする。 しかし兄から語られる母のことをどこか他所事のような気持で訊いている私がいた。 ずっと抱いていた母への憎悪。 そして傍にいなかった十年という月日が私から母という存在を遠いものにしていた。
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