母という名の逝き者は

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「そうだ、おまえに渡すものがあった」 何かを思い出した兄が居間から出て行った。 そして戻って来るまでそう時間はかからなかった。 「ほら、これ」 兄から手渡されたのは一冊の本だった。いや、本というよりもこれは 「母さんの日記だ」 「日記?」 「母さんの遺影用の写真を探している時に見つけたんだ。箪笥の奥に仕舞われていたんだが」 「……」 兄が何故それを私に手渡したのか解らず首を傾げた。 「おまえのことが書かれている」 「え」 「悪いと思いながらも中を見た。そうしたら其処に書かれていたのはおまえのことばかりだった」 「……」 「だからそれはおまえが持っているのがいいと思ったんだ」 「……」 兄の言葉に色んな感情が湧き上がる。 あの母が私のことを日記に書いていた。それは一体どういうことなのか。 (……ううん、見なくても大体想像がつく) あの母のことだ。最初から最後まで私の悪口か愚痴が書き殴られているのだろう。 そういうことを書きそうなのだ、あの母は。 「要らない」と兄に突き返したけれど、どうしても持っていろと強くいわれてしまい仕方がなく受け取ってしまった。 もしかしてこれは兄が私に対して遠回しな嫌がらせをしたのかな、なんて考えてしまった。
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