母という名の逝き者は

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──しかし母の日記内容は私の予想に反したものだった その日記には私を授かった日から、そして出産を経て育児を開始してからの些細な気持ちが短い文章で書き込まれていた。 日付はまちまちで、きっとその時の気分や感情をそのまま日記に綴っていたのだろう。 【お腹の子が女の子と判明。女の子が欲しかったからとても嬉しい】 【女の子は男の子よりも育て易いというけれどそうかな? お兄ちゃんより熱が出る頻度が多い気がする】 【せっかく作った離乳食を投げられた。つい怒鳴ってしまい泣かれたけれど泣きたいのはわたしの方だ】 【可愛いのに……大切にしたいのに……少しでも反発されると怒りで感情がコントロール出来ない】 【ごめんね。今日も手が出てしまった。悪いのはわたしなのに。どうしてこんな風になってしまうのだろう】 【あの子たちから父親という存在を奪ったのはわたし。分かっている。だからこそその分わたしは頑張らないといけない】 【分かって欲しい。わたしは本当にあなたが大好きで大切で、かけがえのない宝物だと思っている】 【あの子がわたしを嫌いでも、それでもわたしは絶対にあの子を嫌いにはなれない】 【あの子が幸せになれるためにわたしはどうしたらいいのだろう。やはり傍にいない方がいいのだろうか】 その時々に起きた些細な出来事の中で感じた母の本音が数行書かれているその日記は、なるほど兄がいっていたように主に──というか、ほぼ私のことでいっぱいだった。
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