第1章

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第1章

「檻」 青野ミドロ 霧の濃い初秋のある日。 動物園の看板を見かけたので、少年は園内に入ってみた。 するとまず見かけたのは「オランウータンの檻」だった。木陰で休んだり、木から木へと飛び移ったりしていた。 その奥へ進むと、「キリンの檻」「ゾウの檻」と来て、とうとう「パンダの檻」があった。 人気者のパンダはのったらくったらと動き笹の葉を面倒そうに噛み砕いていた。 さらに奥があった。そこにはプラカードで「罪人の檻」と書かれていた。 そこには世界的に有名な犯罪者が両手で檻を掴みながら、雁首並べて収監されていた。 少年はなぜ、ここが動物園なのに人間が閉じ込められているのだろうと不思議がった。 彫像でしか見なかったが、ギリシャ語で叫んでいるあいつは会場一面に薔薇の花びらの群れを落とし、多くの列席者を窒息死させたといわれるヘリオガバルスではないか、と思った。 そして檻にかじりつき白い歯をむきだしにしている婆さんは、かつて美女の両手両足を切り落とし水瓶に浮かべて四六時中にやついていた西太后ではなかったか。 少年は次第に、ここは世界中で罪を犯した人が収監される刑務所なのだと思いこむようになった。 すると次に、「偉人たちの檻」があった。 テレビで見たことのある様々な国の偉人が収監されていた。 当然ながら、少年は混乱した。なぜこの世に多大なる貢献を果たしたアインシュタインが檻に入っているのだ。 エジソンやニュートンだけではない。最近になって偉大な賞を受賞したアイPS細胞を発明した教授やら青色LED研究の開発者なども檻に入れられていた。 すると、ここは裁きの国か。世間への功罪に関係なく、人間界で派手な活躍をした人を檻に納めているのではないかと少年は思った。 すると次に、「神々の檻」があった。ゼウスやらペルセウスなどが収監されていた。 そして中には「閻魔大王の檻」もあった。あの名前のよくわからない洒脱な帽子とシャクを身につけてぶすくれている。 少年はわけがわからなくなった。この場を裁いているのは神もしくは閻魔大王ではないのか。ではこの檻の群れは何を象徴するのか。そもそも自分は歴史のどの時間軸に迷い込んでしまったのか。 とどめの最後の檻には「名もなき人々の群れの檻」があった。その檻は果てが見えないほど広大なもので、中には無量大数の人間が収監されていた。 この場を統括しているのは一体誰なのか。誰もが行き着く先は檻の中というのか。
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