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僕の心はもう限界だった。
土曜日の朝五時過ぎ,ようやく空が白み始めたころ,僕はそっと娘を起こした。夜の空気が薄れ朝の空気が部屋に入って来ると,新鮮な空気で満たされた家が新しい一日を迎えたように感じた。
同時に冷たい空気が僕の身体をなかまで満たし,震える指先を眺めながら,まるで異世界にでもいるような錯覚を覚えた。
娘は僕に抱っこされたままベッドから出ると,なぜ僕に抱きかかえられているのかわからないといった表情で眠い目をこすっていた。透き通るような肌にそっと触れると,くすぐったそうにした。
僕はもう何も考えられなかった。
娘を抱っこしたまま,開け放たれた窓を音もなくすり抜けベランダに出た。
そして僕の腕の中で眠そうに目をこする娘を,娘が愛らしい声を発する前に,その天使のような瞳で僕を見る前に,黙ってベランダから放り投げた。
娘は何が起こっているのかわからない困惑した表情で,僕を見ながら静かに視界から消えて行った。
すぐにドンっという鈍い音が聞こえた。
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