荒寥《こうりょう》の家

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 朝日が僕を照らすと,冷たい空気を肺一杯に取り込んだ。天使のような娘はもういない。お姫様は天使になって僕の前から消えてしまった。そして黙ったまま静かに寝室に行き,妻の身体を揺すった。  寝ている妻の耳元で娘が見当たらないと囁くと,妻は眠そうに身体の向きを変えた。もう一度ゆっくりと,娘の姿が見当たらない,ベランダの窓が開いていると伝えた。  妻は突然目を見開き,飛び起きると,驚くほどの早さでベッドを飛び出し裸足のままベランダに飛び出した。  ベランダから身を乗り出すようにして手摺に捕まり,下を見ている妻の後ろに立った僕は,妻の両脚を抱え,力いっぱい妻を空に投げ飛ばすようにして放り投げた。  朝日を浴びながら冷たい空気のなかで逆さになりながら,真っ白な空に溶け込む妻と目が合った。  妻の驚く顔が僕の心を満たしてくれた。妻はまるで僕の手を求めるかのように,命一杯手を伸ばしたが,すでにベランダからは離れ,静かに回転しながら墜ちていった。  僕と娘を裏切った妻への罰だと言わんばかりに,僕はベランダから墜ちていく妻を引きつった笑顔で見送った。  さっきより少し大きなドンッという音を聞き,僕は静かにベッドに戻った。
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