荒寥《こうりょう》の家

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 朝七時前にインターフォンが激しく鳴らされ,無理矢理起こされた。こんな時間にインターフォンを鳴らされたことがなく戸惑ったが,インターフォンの画面に映る数名の大人たちを見てドアを開けた。  僕はパジャマ姿のまま寝ぼけた声で玄関を開けると,制服を着た警察官が三名やってきて,玄関でなにかをしゃべり始めた。  目の前で警察官とマンションで契約している警備会社の人,誰かはよくわからない大人が一斉に僕になにかを伝えてきたが,何を言っているのかしばらく理解できなかった。  やがて意識がはっきりしてくると,妻と娘が誤ってベランダから墜ちたらしいと年配の警察官から説明を受けているのがわかった。  警察官の声はどこか遠くから聞こえてくるようで,何度も同じことを繰り返し言われていたが、僕は返事もできないままその場に立ちすくんでいた。涙が止まらず,悲鳴のような絶叫が一階にいる警察官や野次馬にも聞こえていた。  それから先の記憶は曖昧なのだが,妻と娘が早朝に誤ってベランダから墜ちて命を失ったこと,突然家族を失い独りになってしまったことが徐々に理解できた。
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