荒寥《こうりょう》の家

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 何が起こったのか,僕にはまったく理解できなかった。  悲しいというよりも,突然の出来事を受け入れられずにいた。仕事に行って帰ってきたら,いつも通り妻と娘が出迎えてくれるんじゃないかと思った。  毎日,誰もいない部屋の中で呆然とし,誰にも見送られることなく家を出た。仕事から帰ってきても部屋の電気は点いておらず,ドアを開けてもお姫様が僕に向かって飛び込んでくることもなかった。  日が経つにつれ,あんなに愛していた家族が目を覚ましたらいなくなった現実がジワジワと僕を苦しめた。つい数日前まで暖かい家族とともに過ごしていた部屋が死んだように冷たく感じた。  職場のみんなも僕の体調を心配し,しばらく仕事を休むことになった。僕としては仕事をしていたほうが気がまぎれて,妻と娘を失ったことをほんの少しの間でも考えずに済んだのだが周りの人たちはそうは思ってくれなかった。  マンションに独りでいても,何も考えることができず,何も手に付かなかった。悲しみと寂しさに押し潰されそうになるのを,独りで必死に耐えるしかなかった。  コップ一つにも想い出がつまり,何気なく手にしたタオルからも娘の顔が浮かんだ。それでも何かを食べないといけないと思い,キッチンの戸棚を開けた。
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