荒寥《こうりょう》の家

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 いつ買ったかわからないレトルト食品が綺麗に並び,その端にには色々な箱が物入れとして入れられていた。  戸棚の中の食器の間に,見たことのない薄い一冊の本のようなものが刺し込まれていた。そっと手に取ると,可愛いイラストが描かれた表紙が目についた。  何気なく手に取り表紙を見ると,それは娘の時とは違う新しい「母子手帳」だった。どうして戸棚にこんなものが挟まっているのか不思議に思いながら,妻の字で書かれた表紙の保護者の名前を見て,懐かしく思いそっと指で撫でた。  恐る恐る中を確認すると,妻は二人目を妊娠し,定期的に産婦人科に通っている記録が目に入った。  日付を見ると,亡くなる前の数日間は何か問題があったようで頻繁に通院しており,娘が体調不良で寝ていた日にも病院に行っているのがわかった。  安定期に入るまで黙っているつもりだったのか,僕が仕事で追われてる様子をみて心配させないように気配りをしていたのかわからなかったが,妊娠していたということだけはこの「母子手帳」が教えてくれた。  誰もいない部屋で「母子手帳」を握り締め,ただただ混乱した。すべては夢で,僕はまだベッドのなかにいるんじゃないかと思った。そうであって欲しいと願った。  振るえる指で「母子手帳」をそっと戸棚に戻すと,黙ってその場に座り込んだ。
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