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あれから六年,僕はいまだにこのマンションに独りで暮らしている。
薄暗い部屋でテレビの音だけが響き渡り,僕の心を少しずつ削り取ってゆく。かつて一緒にいた家族との想い出が薄れていくと同時に,最愛の娘の顔が思い出せなくなってゆく。唯一思い出せる娘の顔は,僕を見ながら堕ちてゆく愛らしくも悲しげな目だけだった。
自分が誰なのか,どうやって生きてきたのか,もはやすべての記憶が曖昧で,これから先どうなるのかもわからないまま薄暗い部屋のなかで,やけに大きなソファの端にたった独りで座っている。
目の前に置かれた,大切なところはまだなにも書かれていないボロボロになった「母子手帳」を見ながら,心に開いた大きな穴から溢れる意味のわからない悲しみと得体の知れない後悔に飲み込まれ,味すらわからない残り物のお惣菜を静かに口に運ぶ。
娘が大好きだったキャラクターの描かれた取っ手の欠けたコップに水道水を注ぎ,噛み切ることのできないなにかを胃に流し込む。震える指先で娘の記憶が残るコップの縁をなぞるたびに,僕を見ながら堕ちていく娘の目を思い出す。
かすかに残る妻と娘の想い出と,産まれてくるはずだった新しい命を想いながら,この先ずっと僕の命が尽きるまで,僕はこの場所で独りで暮らしていく。
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