荒寥《こうりょう》の家

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 その頃はいまでは想像もできないほど景気がよく,なにをしても会社の業績が伸びていたこともあり,忙しすぎて家に帰れない日が続くこともあった。  あまりに忙しく,どんなにストレスがたまっても忙しい分はそのまま賞与に還元されるので,この忙しさを乗り切ればあとで長期休暇をとって家族で旅行にいけると,いつも社員たちは疲れた顔で楽しそうに話し合っていた。  いま思えば理不尽なことばかりだったが,それも含めてすべてが当たり前で,すべてが家族のためだと思いながら仕事をしていた。  僕の娘はディズニーワールドに行きたいと目をキラキラさせ,妻は暖かいところに行ってみたいと,ネットで調べた南国の島巡りのツアーサイトを送ってきた。  妻と娘の希望を両方叶えることができるのか,いろいろ考えたりもしたが,楽しそうにする家族の姿を思い浮かべるだけで僕を元気にした。  家族をもつ社員は皆同じようで,お昼休みになるとそれぞれ家族のために旅行先や美味しいお店の情報交換をした。こんな些細(ささい)なことが楽しく,会社で聞いてきたことを妻に伝えることも僕にとっては大きな喜びだった。妻も楽しそうに僕の話に付き合ってくれた。
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