荒寥《こうりょう》の家

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 妻はいつも朝早く起きて朝食の準備をしてくれて,玄関で僕を笑顔で見送り,そして帰宅するまでの間に家事や家のことを済ませてくれていた。  僕はそんな妻を少しでも疑った自分が恥ずかしく,妻から感じた違和感は気のせいだと自分に言い聞かせた。  しかし,何度自分に言い聞かせても違和感は増す一方で,妻の笑顔の下に冷たい顔が潜んでいるのではないかと不安になった。  一緒に食事をしていても妻の好みが変わったような気がした。いままで好んで食べていたものが減り,味付けも変わりあまり見ない食材が食卓に並んだ。誰かの影響を受けているのだろうか,どこかで誰かと食べて美味しかったものを食卓に出しているのだろうかと疑った。  それでも娘は相変わらず妻に懐いていて,いつも一緒に過ごしているはずだし,僕が妻を疑う理由が見当たらなかった。  何度も何度も妻を信じよう,きっと僕の思い込みだと言い聞かせたが,思えば思うほど妻の態度に不自然さを感じるようになった。
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