荒寥《こうりょう》の家

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 それから二日間,娘はベッドから出ることなく大人しくしていた。さすがに娘もベッドのなかで過ごすのに飽きてきたようで,日中はリビングでテレビを観て過ごした。  娘の容態が落ち着き食事を取れるようになると,妻がいないところで娘がポツリと耳を疑うようなことを囁いた。 「あのね……お母さんね……ずっと帰ってこなくて怖かったの……」  娘の口から聞いたこの一言で,僕の中の違和感が妻に対する疑念に変わった。疑念に変わったというよりも,数日前から抱いていた気持ちの悪い違和感が,一気に確信に変わった気がした。  妻の『家事が忙しかったし,ずっと家にいた』という言葉が何度も頭の中で繰り返された。胸が張り裂けそうになり,必死に娘の言葉を理解しようとした。  震える手でそっと娘を抱き寄せて,小さな頭を撫でた。 「お母さんはね……お外で……お外でやらなくちゃいけないお仕事があったんだよ……。このことは……お母さんに言わないようにしようね……」  娘は僕の胸の中で静かに頷いた。その表情を見て僕の心が張り裂けそうになり、同時に得体のしれない真っ黒な闇のようなものが拡がっていくような気がした。
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