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それからずっと僕は何も知らない振りをした。娘から聞いたことも黙っていた。
そして胸の中に拡がる暗くて重い憂鬱を,静かに誰にも気付かれることなく育てていった。
妻の笑顔が信じられず,僕の知らないところで知らない誰かに会っているんだろうと思った。僕が仕事をしている間,妻は誰かと一緒にいるんだろう,その誰かに本当の笑顔を見せているんだろうと思うと胸が張り裂けそうになり苦しくなった。
妻が娘を置き去りにしたまま誰かと会っているかと思うと,娘が不憫に思えた。娘を妻に任せるのは,よくないことだと考えた。
妻のことを思うと真っ黒な不安と憎しみが心を満たしていくと同時に,心の底から妻を愛している自分が情けなく,もし願いが叶うなら時計の針を巻き戻して欲しいと願った。
僕が仕事をしている間,妻はなにをしているのだろうか。どこで誰となにをしているのだろうか。僕の知っている相手だろうか,ただのママ友かもしれないし,まったく知らない誰かかかもしれないと思うと呼吸が浅くなった。
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