求む! 俺の神小説本!

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求む! 俺の神小説本!

 十一月二十七日、金曜日。朝十時三十分に俺はアパートの玄関を飛び出した。郵便受けの下に置いてある自転車に跨がり、錆びついたペダルをぐいとこぎ出す。  ついにこの日が来た!     師走間近の冷えた朝の空気に向かい、俺は叫びたいのを堪えながら家の前の坂をぐんぐんと下っていく。本当は両手を挙げて万歳したいところだが、危ないし恥ずかしいのでそれは止めておこう。しかし口元から湧きあがる笑みだけは、堪えきれない。  今日のために仕事は有給休暇を取った。  昼飯と夕飯にカップ麺も補充して、帰宅したら今日一日は外に出なくてもいいように準備も万端。   「うぉおお!」  我慢できずに思わず唸ってしまうと、ちょうど目の前の赤信号が青に変わる。ラッキー! と思いながら俺はブレーキをかける事なくそのまま交差点を突っ切った。  目指すは商店街の「YKブックス」。  昔ながらの個人経営の書店。もう通って七年にもなる。アパートから自転車を飛ばせば五分ほどで到着する、その青い看板を目指して俺は走り抜けている。  今日は、待ちに待ったあの本の発売日なのだ!
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