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すると少年は、まるで自分の方が愛おしむ気持ちは大きいのだと言わんばかりに、その男の手にさらに自分の両手を重ねて包み込むように握りしめた。
男はやっぱり困ったような笑みを見せ、それでもそのまま衝動に駆られるように、再び少年の方に唇を寄せた。
「……んっ…ぁ……」
シンとした室内に驚くほど甘い吐息が漏れ聞こえた。
やがて男は触れた時と同じくらい優しく、そっと唇を離し、少年から距離を置いた。
「……先生」
「本気で駄目だ。これ以上やったら、俺は未成年淫行罪で捕まるな」
冗談めかして言う口調の中に微かに本音が見え隠れする。
「だったら……あと半年待ってください!」
そのままさらに距離を取ろうとする男の腕を捉え、少年が早口で叫んだ。
「そうしたら……次の誕生日が来れば、僕は十八歳になります」
「……誕生日……半年ってことは十二月?」
「はい。十二月十七日。その日、この場所で待ってます。逢ってくれますか?」
「…………」
「逢って…くれますか?」
不安げな少年の様子を見て、男はふっと眩しそうに目を細めた。
「わかった。必ず行くよ」
必ず行くよ。
それはとても小さな声だったが、やけにはっきりと室内に響いた。
窓の外には初夏の日差しが暖かく降り注いでいた。
FIN.
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