33人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
***
それからのすべてのことは俺の意識の外で進行していった。
波崎は、ぶっ倒れたそいつを抱え上げ、さっきまで女史が座っていたソファに寝かせると、手近にあったおしぼり代わりのハンドタオルを改めて水に濡らして額に乗せてやっていた。
「何? 発作? 貧血?」
さすがに女史も心配そうな顔で覗き込みながら、波崎に聞いている。
「持病があるなんて話、プロフィールには記載してなかったと思うんだけど」
「俺も知らないです。少なくとも今までこいつが発作を起こしたことなんかないですよ」
女史の隣で波崎も困惑したような表情を浮かべている。
「おい、加賀。大丈夫か? 加賀」
波崎がなんとか意識を取り戻させようと、そいつの頬を軽く叩いている。
加賀。それがあいつの苗字。ということは、ミズキっていうのは下の名前か。
あいつ加賀ミズキっていうんだ。
ミズキ。
字はどう書くんだろう。
水木、美月、瑞貴だろうか。
騒ぎの輪から少し外れた位置で、俺がぼんやりとそんなことを考えていると、女史がつかつかと歩み寄って来た。
「……ねえ、あんた、さっきなんか言わなかった?」
「……何か…とは?」
「とぼけるな。加賀君の顔見て何かつぶやいてたでしょうが」
「…ああ……」
「ってか、さっきあの子、あんたを見たとたん失神しなかった?」
「そうでしたかね。よっぽど俺の顔が化け物にでも見えた…とか?」
「ふざけるな」
女史の目は真剣だった。冗談を言う余裕はないみたいだ。
俺は諦めて小さくため息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!