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「あんまりプライベートに踏み込むつもりはないんで詳しく聞く気はないけど、何か思い当たることくらいないの?」
「俺とあいつとの間に直接的な繋がりはありません。あいつは……」
俺は覚悟を決めて口を開いた。
「あいつは、兄貴の教え子です」
「教え子? でもあんたのお兄さんって、確か一昨年だっけ、あんたが高三の時に……」
「バイク事故で亡くなりました」
やっぱりそうよね、と、秋良女史は心配げな表情で俺を見上げる。
「生前、兄貴は大学で教職を目指してて、教育実習にも行きました。この学校です」
そう言って俺は瑞希のプロフィールに書いてある高校の名前を指さした。そこには兄貴の教育実習先であった高校の名前が記載されている。
「…………」
見ると女史の顔色が、さすがに少し青ざめていた。
「実習期間はたった三週間だったけど、ずいぶん可愛がってもらったみたいで、兄貴のお通夜にも来てました。でも特に会話らしい会話も交わしてないし、もちろん名前だって聞いてなかった。その時も、制服を見て、ああそうなのかと思っただけだし」
「……そう…だったんだ」
「はい。だから俺自身はあいつのことは何も知りません」
これも嘘ではない。
俺はあいつのことを何も知らない。
知ることも出来なかった。
出来ないままに傷つけた。
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