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過去[兄の追憶]
◆◆◆
いつも同じものを好きになった。
「ほら、お土産だ。好きな方を取りなさい」
親戚の叔父さんが家に遊びに来た時、よくそう言って俺達の目の前にお土産を置いてくれた。
それはおもちゃだったり、鞄だったり、文房具だったり、それこそ色々だったけど、必ずといっていいほど俺達は同時に同じ品物の方へと手を伸ばしかける。そしていつも兄貴はその手を突然方向転換し、俺が伸ばさなかった方の品物を手に取るのだ。
ああ、まただ。
また、譲ってもらってしまった。
嬉しいというより、兄貴にすまないという気持ちが湧き上がる。
でも、それを指摘すると兄貴はいつも、そんなことない、と。俺はこっちがいいから、と。そう言って笑うんだ。
だが、たったひとつだけ。
そんな兄貴がたったひとつだけ、俺に譲ろうとしなかったものがある。
それがあいつ。
加賀瑞希だ。
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