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あの日、俺はひどい風邪を引いて寝込んでいた。いや、風邪じゃない。インフルエンザだったっけ。とにかく、すっげー高熱が出て起き上がることも出来なくて。
ふだん滅多に寝込んだりすることはなかったから、俺も兄貴もひっくるめてあの時は家族全員大騒ぎをした。
寝込み始めて三日、四日ぐらい経った頃だったかな。運悪く両親が二人とも外せない用事があって、泊まりで外出してた夜。俺は兄貴と二人だけで家にいた。
兄貴は両親の言いつけを守って、ずっと俺についててくれた。美味くはないけど一生懸命に作ったお粥を食べさせてくれたり、氷枕を用意してくれたり、汗で蒸れた身体を拭いてくれたり。
そして、何故かずっと時計ばかり気にしていた。
「愁兄、用事でもあるのか?」
俺が聞くと、兄貴はちょっと困ったような顔をして、でも何もないよと首を横に振った。
「嘘つけ。なんかあるんだろう。ずっと時間気にしてんじゃん」
俺がきつく追求すると、それでも兄貴はなんでもないと首を振った。
「いいんだよ、別に。それにもしかしたら来てないかもしれないし……」
「来てって…やっぱ用事あるんじゃねーか。なに? 誰かと待ち合わせ?」
「いや……待ち合わせっていうか、ちょっとした約束が……」
「約束? 誰と?」
「…………」
何故か兄貴は答えない。
「なあ、誰と約束したんだよ」
俺が重ねて聞くと、ようやく兄貴は重い口を開いた。
「……ミズキ」
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