過去[兄の追憶]

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「と……それって……」  場所が学校の図書室?  しかも約束したのが半年前ってことは。 「その高校の生徒と? 実習中にした約束ってことなのか?」 「そういうこと。だから言っただろう。向こうだってもう忘れてるだろうし、そもそもあの学校までは、峠を越えなきゃならないから時間もかかる。どっちにしても今日中にっていう約束はもう守れない」  言われて時計を見ると、時間はすでに夜の十時を回っていた。  たとえ向こうも約束を覚えていたとしても、さすがにこの時間までそいつが兄貴を待ってるなんて考えられない。  それなのに。  兄貴は時間を気にしてる。  兄貴は出来ることなら行きたいと思っているのだろうか。  半年も前の、たった一言だけの約束なのに。 「でもさ、こんな時間にどうやって高校の図書室に行くんだよ」 「あの学校、裏庭のほうからこっそり入り込める場所があるんだよ。俺達の代の頃からの秘密の抜け道」  そう言って兄貴は小さく肩をすくめてみせた。  なるほど。ふつう教育実習先はその当人の母校であることが多い。兄貴もそれに倣って自身の出身校で実習を行ったんだった。  にしても秘密の抜け道ね。  そういえば俺もこの夏、夜中に学校に忍び込もうと、トイレの窓の鍵が開けたままになってる箇所なんかを悪友達とチェックしたことがあった。あの時は屋上に上って流星群を見ながら騒いだんだ。  天体観測なら別に忍び込む必要はなかったと思われそうだけど、あの時あらかじめ学校の許可を取ろうとしなかったのは、誰かが酒を持ってこようとしてたからだ。
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