過去[兄の追憶]

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「なに?」  急ブレーキをかけ、兄貴が振り返る。 「もしそいつが本当に図書室に来てたら俺にも会わせて」 「……え?」  兄貴の実習先の生徒ってことは、確か俺と同い年の高三のはず。どんな奴なのかちょっとだけ興味が湧いた。 「お前と、ミズキを?」 「そう。いいだろ?」 「ごめん。それは無理」  俺の言葉に、兄貴は一瞬も迷わず驚くほどきっぱり言った。 「悪いけどお前には絶対会わせない」 「はあ? なんだよそれは」 「だって、あの子は叔父さんがくれるお土産とは違うから」  譲れない。  言葉に出来ないそんな兄貴の声を聞いた気がした。  そして、その言葉が俺が聞いた兄貴の最後の言葉になった。
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