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通夜の夜、あいつは傘もささず門の前でただただ立ち尽くしていた。叩きつける雨がそいつの制服をぐっしょり濡らし、布に含みきれない滴はポタポタと地面に吸い込まれていっていた。
ああ、こいつだ。こいつが兄貴が言っていたミズキだ。
誰に聞かなくてもわかる。
それは、ほとんど確信に近いものだった。
「いつまでそこにいる気だ? お前」
じっとその場所を動こうとしないあいつに、俺はついに痺れを切らして声をかけた。
「…………!?」
そいつは俺の顔を見て、強張ったように表情を硬くする。
一瞬女の子かと思うほどに整った綺麗な顔から、さっと血の気が引いたのがわかった。
「んなところで立ってられちゃ迷惑なんだよ。とにかくこっちへ来い」
腕を引っ張り、無理やり門をくぐらせる。ただ、そのまま玄関へ向かう気が起きなくて、俺は人目を避けるように裏庭に回り、勝手口からそいつを家にあげた。そして皆が集まっている部屋から一番遠い奥の部屋にとりあえずそいつを押し込んだ。
「今、タオル持ってきてやるから待ってろ」
自室へ戻り、適当にタオルを数枚抱えて部屋に戻ると、そいつはさっき俺が手を放したその同じ位置、まったく同じ姿勢のまま微動だにしていなかった。
こいつは人形か何かなんじゃないだろうか。
そう思えるほど、そいつの姿勢は何一つ変わらない。時間までもが完全に止まっているみたいに見えた。
ただ、髪からポタリと落ちる滴が、この部屋の時間は間違いなく動いていることを証明していた。
「ほら、とりあえず身体拭けよ。いつまでそんな濡れ鼠のままでいる気だ」
俺がそう言ってタオルを差し出しても、そいつは受け取ろうとしなかった。仕方がないので俺はそいつの頭にタオルをかぶせ、ゴシゴシと力任せに擦った。力加減なんか全然わかんないから、かなり痛かっただろうに、やっぱりそいつは声ひとつあげなかった。
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