過去[兄の追憶]

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「……っや……」  ようやくやつの口から発せられた声は、声というにはあまりにも小さな音だった。それなのに、その声は何故かジンッと俺の耳に吸い付いたような気がした。  だが、それもその一瞬だけで、もうその後はそいつの口から声は発せられない。見ると、そいつは必死で歯を食いしばって声を殺そうとしていた。  なにをやっているんだろう。俺は。ぼんやりとそんなことを思った。  俺はこいつの声が聴きたいから、こいつの身体に触れているのだろうか。  それともこいつの身体に触れる理由が必要だったから、無理やりそんなことを考えて自分を納得させようとしているのだろうか。  ミズキの肌は、きちんと拭いたにも関わらずまだしっとりと濡れているかのように、手に吸い付いてきた。滑らかですべすべした極上の手触りだ。余分な脂肪なんか全然ついていないくせに、なんでこんなにこいつの肌は柔らかいんだろう。  気が付くと俺は自分のズボンのチャックを下ろし、すでに硬くなった一物を取り出すと、指の代わりにあいつの中に差し込んでいた。 「…………!」  指とは比較にならない衝撃と圧迫感。ミズキは声にならない悲鳴をあげ、ビクンッと背中を反らせた。  男のくせにやけに細い腰、しなやかな肢体。吸い付くような濡れた肌。  すべてのものがなんだか夢の中の幻のように見えた。
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