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ほんの少し動くだけで、食いしばったあいつの歯の隙間から僅かに息が漏れた。
「……んっ…くっ……」
下半身に熱が篭もる。ジンっと痺れるような感覚の後、ちょっとだけ滑りが良くなった気がして、俺が腰を動かしてみると、そいつの吐き出す息に微妙な変化が起きた。
「……やっ……あ……ぁあっ……」
俺の動きに合わせて、お互いの息があがる。背中が反り返る。真っ白だった肌にポッと赤い花が咲く。
俺の方だけだと思っていたこの奇妙な感覚と高揚感を、ミズキも感じているのか。
同じ時間。同じ感覚。共鳴。
ふいに叩きつけるような雨の音が耳に飛び込んできた。
その時。
「健、どこにいるんだ」
廊下の向こうから俺を呼ぶ父親の声が聞こえた。次いで廊下を通り過ぎていく足音。
「…………」
「たける……?」
掠れた声で俺の名前を呼びながら、はじめてあいつは振り返り俺を見た。
「……痛っ…」
そして視線があったとたん表情が苦痛に歪む。体勢を変えたことで激痛が走ったのだろう。その証拠に、そいつの太ももにどろりとした赤い液体が流れ落ちてきているのが見えた。
ぞわりとする。
一瞬で正気に戻った時にはもう何もかもが手遅れだった。
俺は何をした?
何をしてる?
何をやってしまった?
そして今度こそ溢れ出す凄まじいまでの後悔の念。
なんてことをしてしまったんだ。自分は。
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