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「で、今から何処へ?」
「大学よ」
「大学生なんすか? そいつ」
文化祭や芸術鑑賞会など、公演依頼が殺到する二学期は、一学期の三割増しのステージ数になってしまい、結果、巡業に出る公演班の数も増えることになる。その為、先日より劇団では近隣の養成所や劇団、俳優事務所なんかに声をかけ、新たなメンバーを探していた。
そんな中、俺達の班では、カムパネルラ役をその新しく入ってくる新人に充てることを決めていたが、この役はシナリオを書いた本人である秋良女史にとってかなり思い入れのあるキャラクターであった為、なかなかこれはという良い人物がみつからなくて苦労していたのは聞いている。
だとしても、養成所だけじゃなく大学にまで声をかけてたとはさすがに知らなかった。
「彼、そこの学生さんなの。現役入学で今二年生だから、年はあんたと同じね。名前は確か…加賀くんだっけ。写真見た限りではすっっっごいイケメンだから覚悟しといてよ」
今、どんだけ“っ”を溜めた? この人。
「いや、イケメン相手に何を覚悟するんすか。俺が」
「だって隣に立って引け目感じたら大変でしょ」
「…………」
あんたはどんだけ俺を低く見てんだ。ってか、まさか今回の採用、顔で選んだんじゃないだろうな。
と、疑いの目を向けると、女史は、経歴や人柄も含めちゃんと吟味して選んだわよと言ってのけた。そしてついでのように、あんたもまあまあ悪くはない部類にはいってるから大丈夫、なんて。
ったく、何が大丈夫なんだかちっともわからないし、嬉しくもない。
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