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にしても、イケメンねえ。雑誌のなんちゃらボーイコンテストとか、アイドルグループのなんとか君とか、そういった系統の顔なのかねえ。
まあ、俺だって別に人並みに綺麗なものは嫌いじゃない。だが、だからといって別にイケメンに興味はない。ってか、そもそも、今までの人生で男を見て綺麗だなんて思ったことは一度もない。
一度も。
いや、違う。正確に言うと一度だけ。
一度だけあった。
それは雨に濡れた髪。白い肌。黒子ひとつない背中。
「…………」
俺はふっと頭に浮かびかけたものを力いっぱい振り払った。
あれは駄目だ。
あれだけは駄目だ。
俺が思い出していいものじゃない。
あれは俺の中で最低最大最悪の出来事で、俺には思い出す権利のない出来事で。
「くそっ……」
「なに? 何か言った? 健」
「いえ、何も」
というわけで、内心では面倒くさいなあという思いのほうが強かったが、劇団副代表の言葉に逆らえるわけもなく、俺は大学への道程を秋良女史の従者のように付き従って行くことになった。
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