再会という名の出逢い

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 秋良女史は波崎に勧められるままいそいそとソファに腰かけ紅茶を楽しみ始めたが、俺はどうもこういう優雅な感じは苦手だったので、つい席を立ち倉庫の奥にある道具類の方に目を向けた。 「奥の方、見せてもらっても構いませんか?」 「どうぞどうぞ」  了解を得た俺は、その部屋の本来の目的である倉庫部分の探検に乗り出した。  入口近くにある応接セットとは違い、やはり奥には舞台で使用したと思われる道具や衣装類が所狭しと並んでいる、まさに倉庫だ。若干埃をかぶっているのもご愛嬌。  吊り下げ型の窓。三本しか足がない椅子。夜空を演出する星球はうちの劇団で使っているものと同じだ。向こうに丸めて置かれているのはホリゾントかな。あと、こっちの彫刻を施した古めの長剣は、例のシェイクスピア劇で使ったものだろうか。  そんなことを考えながら俺がどんどん奥まった場所へ足を踏み入れていると、ようやく背後で入口のドアが開き、誰かが入ってきた気配がした。 「すいません。お待たせしました」  少しトーンの高い透明感のある声。一瞬女性かと思うほどに滑らかで優しい声質だ。  なんというか、それはとても耳に心地良い声だった。この声で詩なんか朗読したら、結構なファンがつきそうだ。  なるほど、裏方だったこいつを表舞台にあげたくなった奴の気持ちがよくわかる。  俺が背中で声だけを聴いていると、そいつは俺には気付かなかったようで、そのまま応接セットの方で女史と挨拶を交わし、契約の手続きを開始したみたいだった。俺は気付かれないまますっかり蚊帳の外ってわけだ。  まあ、俺はただの従者だし、最後にちょこっと顔を出して今後ともよろしく、程度の挨拶をすればいいだろう。そんなふうに考えていると、一通りの説明を終えたのか、女史がソファ越しに俺の方を振り返った。
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