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大好きだった銀のことが怖くなったのは、いつからだっただろう。
気がつくと私は、銀が、いや、銀と一緒にいる時間が苦しくなっていた。
そして銀も、そのことを薄々感じているようだった。
銀はそんな時、私の気持ちに気がついてしまうような時、よくどこか哀しそうな眼をしていた。
私はそんな銀の眼にまた苦しくなった。
悪循環だった。
何度も喧嘩をした。
幼かった私は、得体のしれない不安に苛立って、愚痴もストレスもすべて銀にぶつけた。
全部銀のせいにした。
銀が言い返してこれば、また腹が立った。
別れた方がいいかも知れないと、何度も思った。
それでも、一緒にいたかった。
苦しくても、苛立っても、毎日のように会っていた。
会わずにいられなかった。
別れるなんて、出来なかった。
離れるなんて考えられなかった。
転機が訪れたのは夏の終わり。
台風が来た日のことだ。
その日も、私たちは銀の家でいつものようにテレビをつけっぱなしにして、ただなんとなくゴロゴロしていた。
その頃はもう、私達もいい加減疲れていて、一緒にいてもあまり口を利かなかった。
倦怠期の夫婦みたいだな、とぼんやりしていた私に、突然銀が話しかけてきた。
「俺、たぶんもうすぐここからいなくなる。そんな気がする。
うまく説明でにないけどさ。
そうしたら、葉月も好きなことができるな」
冗談かと思って顔を見ると、銀はとても真剣な表情をしていた。
「何か突然変だよ、それ。どうかしたの?」
「うん。山にでも籠もるかな。それで仙人とかになってさ、熊みたいになって山から下りてきて、葉月の目の前に現れたら面白いだろうな」
言っていることは支離滅裂で、意図も全くわからない変なセリフだったが、銀はどこまでも真剣だった。
私は少しだけ不安になった。
「なに、それ。山に籠もって修行するの?」
銀は散らかしっぱなしだった雑誌を少しずつ片付けながら、小さく笑った。
その仕草に、私はゾッとした。
「今のところ、そういう予定はない。
言いたかったのはそういう事じゃなくてさ、最近葉月が苦しそうだから、楽になるといいなって事だったんだ。
俺は何を言われても葉月の事が好きだけど、葉月、なんか怯えてるだろ?
よく分かんないけど、俺と離れるのがいいんじゃないかと思ったんだ。
昔の、友達だった頃にね」
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