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たった一人で山に篭ってしまった人のような顔で、銀は私と別れようとしていた。 それは、不器用な銀の、一生懸命な優しさだった。 「幸せっていうのは、死ぬまで走り続けることなんだって。人間は、いつも一人だから。 葉月も、もう走り出していいんだよ」 私の中にあった不安は銀の言葉によって崩されて消え去った。 かわりに、銀の優しさがヒシヒシと伝わってきて、私は胸が熱くなった。 「台風、今夜中に過ぎるってね。 今日、泊まってっていい?二人でずっと空見てようよ。窓際に布団敷いて」 そういった私に、銀は笑っただけだった。 家はギシギシと怪しげな音を立てていた。 夜になってますます勢いを増してきた風と雨を見ながら、私は布団の中に寝転んだ。 「今にも、壊れちゃいそうだね」 失礼かな、と思ったけど言ってみた。 「失礼だぞ、葉月。この家はな、俺の爺ちゃんの、そのまた爺ちゃんの代から建ってる由緒正しい家なんだぞ。 大丈夫。今まで壊れたことないから」 自信たっぷりな銀に、怪しいなぁと笑いながら私は銀にくっついた。 銀の胸は温かく、トク、トクと規則正しい音を立てていた。 私は銀の顔を見た。 自分の気持ちを銀に伝えたかった。 「銀。もしもこのままこの家が壊れちゃって、銀と一緒に下敷きになって死んじゃっても、私、それが自分の運命なんだろうなって納得して死んでいけるような気がするの。 だから。もしもこの家が壊れちゃったら、二人で地縛霊になって裏の公園に来る子供たちを時々驚かせて遊ぼうね」 私は幸せな気持ちで言った。 実際に、もしもそうなっても、銀と一緒なら全てが楽しそうに思えた。 銀は笑った。 「だから壊れないって。趣味悪いぞ、葉月」 言いながらも、銀もとても幸せそうだった。 私は彼に自分の気持ちが正しく伝わったことを感じて満足だった。
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