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銀と最期に過ごした日のことを、私は今も克明に覚えている。 私はその日、朝から落ち着かなくて、その日の講義は全て休むことに決めていた。 まっすぐ銀の家へ行って喋っているつもりだった。 銀も、朝から私に起こされてしまった不機嫌から、今日は大学へは行かないと言っていた。 私は一日中銀の家で、銀のそばで過ごしながら、やっぱりなぜか落ち着かなかった。 ただ、母親に甘える子供のように、銀にまとわりついていた。 段々と夕闇が迫ってくると、私はますます哀しくなっていった。 夕焼けはいつにもまして美しかった。 空気までもがオレンジ色に染まって、私も銀もそのオレンジ色の中にいた。 どうしてか、視界が滲んだ。 「なに、泣いてんだ?」 心配するような銀の声に、私は初めて自分が涙を流していることに気付いた。 「俺、なんかした?腹でも痛いか?頭か?」 優しい銀の言葉には、私はただ首を振るだけだった。 自分でも、なんで泣いているのかわからなかった。 銀が元気づけるように淹れてくれた紅茶を飲みながら、私は色々なことを話した。 初めて銀の家に来て紅茶を淹れてもらったこと。 二人で内緒で旅行に行ったこと。 台風の日、二人で窓の外を見ていたこと。 私はそんなことを話しながら、バカみたいに明るく振る舞った。 普段よりトーンの高い声でペラペラと話し続ける私を、銀は優しく見守ってくれた。
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