プロローグ

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その大きな家は、鬱蒼とした森林のようなところに存在している。 住宅街の外れの、小さな公園の裏手だ。 いかにも古めかしい洋館、といった感じで、大きな台風が来たら壊れてしまいそうな家だ。 近所の子供たちの間では幽霊屋敷と呼ばれているが、以前はそこにも、ちゃんと人が住んでいた。 その住人のことを、私はとてもよく知っている。 天涯孤独の身で、性格は底抜けに良かったが、変な人だった。 彼の名は、銀という。 ヤクザの下っ端のような名前だが、カタギの人間だった。 生まれたとき、空にきれいな銀の月が浮かんでいたのが名前の由来だという。 彼は自宅にいるときは本当に変人そのものの生活をしていた。 ただ男の家という以上の乱雑さがそこにはあった。 自分の部屋とリビング、水回り以外の部屋は絶対に何年もの間掃除していないに違いなかったし、唯一掃除をするその二部屋ですら、文字通り足の踏み場もなかった。 ゴミ、雑誌、服、レポート用紙、その他いつのものかよくわからない、ありとあらゆるもので部屋が埋め尽くされていた。 しかし銀はそんなことお構いなしに平気でその中でごろりと横になって寝てしまうし、誰が訪ねてきてもそのスタイルを変えることは絶対になかった。 よく虫がわかなかったものだと、今でも思う。 近所付き合いはもちろんしない。 だから、その頃から空き家だとよく誤解されていたっけ。 銀が死んで、もう1年になる―
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