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それからの私は、長いことおかしかった。
何を見ても、何を聞いても、何も感じなかった。
ただ、銀が、あんなに大切な銀がこの世のどこにももういないという事実だけが私を支配していた。
1週間、私は泣き続けた。
朝も夜もわからず、泣きながら寝て、起きては泣いた。
食事をしていたのか、お風呂には入っていたのか、そんなことも覚えていない。
1週間経ったとき、自然と涙は止まった。
私は家族と食事をし、昼間は大学ヘ行き、夜もちゃんと寝た。
それでもやっぱり、何ヶ月かはふとしたことですぐに涙を流していた。
笑っていても涙が頬を伝うこともあった。
大学の中で、私はいつも銀の姿を探した。
銀と同じ香水の匂いがすれば、その姿をつい見つめてしまった。
銀ではないと、わかっているのに。
感情が全然制御できなかった。
体重はどんどん落ちていき、色々な人に色々なことを言われた。
告白されたり、宗教の勧誘にもあった。
やがて、自然と涙が止まったように、感情も自然と穏やかになり、人前で取り乱したり、涙を流すことはなくなった。
家族や友達も最初は腫れ物を扱うように私に接していたが、そんな私の態度に安心したようだった。
私にも、笑顔が戻った。
でも。
本当は全然だめだった。
私は少しも銀の死から抜け出していなかった。
昼間ではない。
昼間は大丈夫なのだ。
私も笑っているし、死の影もやってこない。
けれど、明け方。
日が昇る頃になると私は必ず目を覚ます。
死の影と、哀しい夢で目覚める。
私を送って帰ろうとする銀を呼び止める夢。
そっちに行っちゃ嫌だと引き止める。
銀は怖い夢でも見たのか?と笑う。
ああ、よかった。
銀の死は夢だったんだ。
安心した瞬間、目が覚めるのだ。
そして、目が覚めた瞬間の絶望を、もう幾度となく味わっている。
目覚めてしまった。
私はまた戻ってきてしまった。銀のいないこの世界に、と。
目覚めたくないと、毎日思った。
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