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そんな時、哀しい夢に泣きながら目覚めてしまった時は、私は必ず明け方の町へ出て行く。
明け方の町を早足で一周する。
それが、真夏であっても、大雨の日も、雪の日も。
たとえ外が凍えそうに寒くても、たった一人で部屋にいるよりはずっとマシだから。
この為にレインコートも買ったし、柔らかな素材のスニーカーも買った。
ひたすらに歩いている間は、哀しいことを忘れる事ができる。
自分の鼓動と、息遣いを感じていればいい。
他の何も、頭に入り込んではこない。
私はこうして歩き続けることしかできない。
こうして歩き続けることしか、知らない。
「葉月。アンタ毎朝どこに言ってるの?」
私が毎朝出かけるようになってしばらくした頃、姉が唐突に尋ねた。
「健康のために、散歩」
「ジョギングしてるの?」
姉は心配そうな顔をした。
私にもその理由はよくわかっていた。
「まさか、そこまでの根性はないよ。そうじゃなくて、早足。ほら、ジョギングよりも早足の方が健康には良いって言うじゃない」
「そう……アンタ最近、肌の色艶良くなってきたもんね。太ったせいかもしれないけど」
「ひとこと余分」
姉は笑って出ていった。
けれど、本当は顔色なんて良くなっていなかった。
太ってもいない。
どんどん痩せて、私は疲れていた。
ねぇ、銀。
こんな無茶を続ける私を、あの頃みたいに叱ってよ。
死んだなんて嘘だって、全部嘘だって笑ってよ。
お願いだから、一人にしないで。
二人でした約束を、全部叶えてよ。
誰にも言わなかったが、本気で銀の後を負うことを考えていた。
姉が心配するのも仕方のないことだった。
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