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その日から、私は満月の日には必ず銀の家を訪れた。
また、銀の姿が見えるかもしれないと、淡い期待を抱いて。
そしていつも、泣きながら帰宅した。
その日も、私は銀の家で紅茶を飲んでいた。
夕焼け空がきれいで、見惚れていたら、ピンポン、と呼び鈴が鳴った。
誰も住んでいないこの家を訪れる人なんて、きっと、新聞屋だろうと私はしばらく居留守を使っていたが、あまりのしつこさに根負けした。
「誰?」
そのぶっきらぼうな言い方が、私が初めてここを訪れたときの銀の口調に似ていて、私は思わずひっそりと笑った。
客は、新聞屋ではなかった。
「槇村と言います。葉月さんですよね?」
私は玄関の重いドアを開けた。
槇村、槇村。
どこかで聞いた気もするが、思い出せない。
何しろ銀は友達が多かったので、恋人の私ですらすべては把握できていないのだ。
玄関には、私と同じくらいの歳の男が立っていた。
「あの、どこかでお会いしましたっけ」
失礼を承知で尋ねると、彼は気分を害した様子もなく、おおらかに笑った。
「やっぱり、忘れてる。銀の友達です。
葬儀の時、葉月さんかなり取り乱していたから、色々と手伝いました」
そう言われると、喪主でありながら、何もできなかった私に代わって、何人もの人に手伝ってもらっていた気がする。
「それで、今日は何か?あ、どうぞ上がって下さい。散らかってますけど」
私は彼のために紅茶を淹れて、足で色んなものをどかして、彼の居場所を作った。
「最近、大学で見かけないし、銀の家に通いつめてるって聞いたから。
あ、僕は槇村 悟と言います。悟って呼び捨てで呼んでください。みんなそうだから」
「じゃあ、私のことも呼び捨てでいいですよ。敬語も使わないでください」
悟はまたおおらかに笑った。
「唐突だけど、今日は葉月に提案があって来たんだ。
そんなに、毎日ここに通い詰めるほど銀を求めているなら、イタコの人に頼んでみるとはどうかと思って」
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