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「葉月、アンタ今日午後から休講でしょ?映画つきあっ……てって言おうと思ったんだけど、何してんの?」
呆れ顔で部屋の入り口に立つ姉の方を向いて、私はシャツで顔の汗を拭った。
「何って……衣替えね、言うなれば」
私は目の前にある衣装ケースの山を指差した。
「それはそれはご苦労様。ね、映画行こうよ。今日が最終日なの」
見つけた。
私は衣装ケースの中から白いコートを取り出した。
「え?なに、映画?ごめん、今日はちょっと」
姉の優しさだとわかっていたが、今日は無理だ。
えー、と言って姉は顔を顰めたが、すぐにハッとしたように、
「ああ。今日は一周忌だもんね、ごめん。今日は一人で過ごすんだって?」
「うん。ほら、銀は宗教とか嫌いだったから。友達関係はどっかで集まるらしいけど。
ごめんね、一緒に行けなくて。宮川さんでも誘ったら?」
何気なく姉の恋人の名前を出すと、彼女は今度こそ本当に嫌そうな顔をした。
「アイツ?だめ、あんな奴絶交よ!」
喧嘩でもしたらしく、子供のようなことを言って部屋を出ていこうとしたが、ちょっと振り返った。
「銀もいいけど……」
言い淀んだ姉に、私は少し笑顔を作ってみせた。
「……アイツは、いい男だったからね」
姉は呟くように言って出ていった。
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