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「座れよ。どこでもいいよ」
リビングらしき部屋に私が入った時には、銀はキッチンで湯を沸かしていた。
「どこでもって……」
その、あまりの汚さに呆然としながらも、私はなんとか座れそうな椅子を見つけて腰掛けた。
なるほど。
確かに凄い家だ。
銀は神妙な顔で紅茶の茶葉を選んでいる。
「なに、いつも紅茶なんて淹れてるの?」
ちょっと不釣り合いだな、と思って聞くと、銀は真面目な顔をしたまま、
「今日はお客様が来たから、特別」
「ふぅん」
他に言いようがなかった。
温かい紅茶を目の前に置いて、銀は私の足元に座りこんだ。
「葉月が家に来るなんて、珍しいな」
「珍しいも何も、初めてよ」
答えながら、銀の淹れてくれた紅茶に口をつけた。
雨の中歩いてきたので、温かい紅茶がありがたかった。
「そうだよな。何か、用でもあったか?」
「ないわよ、別に。ただ大学に来てなかったからどうしたのかな、と思って。
一応彼女として訪ねてみたの」
チラッと銀の顔を見ると、嬉しそうにニコニコしながら私を見つめていた。
「そっか。別に今日はさ、雨だから行きたくないなぁと思っただけなんだ」
「ハメハメハ大王みたいね」
私は茶化したが、本心では無邪気に答える銀が可愛かった。
銀は、紅茶を飲みながらポツポツと自分の話をした。
「俺の両親ていう人はさ、」
銀は懐かしそうに少しだけ目を細めた。
「とにかく変わった人たちで、社会にうまく順応できない人たちだったんだ。今思うと、発達障害だったのかもな。
まぁ、それも今になってみればそう思うっていうだけで、俺自身は別に変わってるとも何とも思わずに、当たり前の日常だと思ってたな。比べる対象もなかったし。比べる気もなかったし」
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