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「ものすごい大恋愛をして一緒になって、少女マンガにでも出てきそうな程、幸せそうな夫婦だった。 ただ、父親は当然のように会社で働くなんて出来ない人だったし、母親も近所付き合いは出来そうにない人だったから、俺が物心ついた頃には、田舎の牧場で隠居夫婦みたいに暮らしてた。 父親はバイリンガルだったから、家で翻訳の仕事をしてて、それが唯一の収入だった。 買い物は月に一度、親子三人で街まで買い出しに行く。誰か一人を置いていったり、逆に一人で出かけることは絶対になかった。 俺はまだ小さかったし、母親はものすごく弱い人だったから。虚弱体質とかっていうんじゃなくてさ、もっと人間的に弱かったんだよ。 何に対しても淡白で、食も細くて、もうお腹いっぱいよって言うのが口癖だった。 『あなたやお父さんがいて、みんなが幸せで、私はもうそれだけでお腹いっぱい』」 銀は耳の後ろをポリポリと掻きながら、小さく息をついた。 「鮮明に覚えてるんだけどさ。 母親は、何か悲しいことがあると、眠りこんじゃうんだよ。逆だよな、普通。眠れなくなるって言うだろ?あの人は、ぐうぐう寝るんだよ。一種の現実逃避だったんだろうな。 父親は、いつも笑ってた。 それで、起きてくるまで小さな小さな音でギターとか弾いてた。俺は、黙ってそれを聞いてんの。
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