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あの日、俺の両親が死んだ日は、ちょうどこの爺ちゃんの家に来る途中だったんだ。
俺は、6歳になってすぐだった。
ちょうどこんな雨の日で、途中の狭い山道で、突然道路を鹿が横切って、避けようとして、グチャ。
俺が助かったのは、両親が俺を抱え込んだからだった。二人は即死。
病院で、爺ちゃんが泣きながら言うんだよ。
なんで鹿なんだろうなぁって。
俺は何に、腹を立ててるんだろうって。
まあ、俺はその後唯一の身寄りである爺ちゃんに引き取られて、中学出るくらいまでは男二人でのほほんと暮らしてたよ。
爺ちゃんは、大学の結構偉い先生だったから、ちゃんとお金も残してくれて、一人で生きていく手段も教えてくれた。紅茶の淹れ方もな」
この広い家で、銀はたった一人で生きてきたのだ。
誰一人頼る身内もなく。
「おお。久しぶりに身の上話をしてしまったよ」
銀は笑って私の顔を見た。
この人は、なんて強い人なんだろう。
喪った身内の思い出を笑って話せる強さ。
でも、同時に気付いてしまった。
銀は、この広い家の中で、今も死んでしまった家族と暮らしているんだ、と。
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