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私と銀の出会いは、考古学の講義で偶然席が隣同士になったというだけのことだった。
私は一年浪人していて、銀は二年留年していた。
私はその日、講義に遅れてしまい、目立たないようにそっと後ろの方の席に座った。
そしてふと、隣に座っている男のブーツに目が行った。
琥珀色をした、いかにも年季ものだった。
人生経験豊富な老人のように、そのブーツに刻み込まれたシワはとても温かで、色の褪せ具合も程よく、私は一目でそのブーツに恋をした。
持ち主はいい人に違いない。
根拠もなくそう思ってさり気なく顔を見た。
一瞬ギョッとして、それからしまったと思った。
彼は私の方をじっと見ていたのだ。
どうやら自分の足をジロジロと見ている隣の女に、彼はとっくの昔に気付いていたらしい。
「俺のお気に入り」
それだけ言うと、彼は再び顔を正面に向けて講義に聞き入った。
私はなんとなく、彼の変人ぽさが気にいり、考古学の講義では意識して席を並べるようになった。
そしてそのまま、「知り合い」「友達」という順序を経て、「恋人」になった。
何で、こんなどこにでもいるような女と銀が付き合うことにしてくれたのか、未だに謎だ。
銀は最後まで理由を教えてくれなかった。
私は彼を思い出すとき、必ずと言っていいほどあの出会いとブーツを思い出す。
それほどに、琥珀のブーツは私の記憶の中に深く残っているのだ。
彼の面影とともに。
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