第1巻 Another Predator 1話 僕の名前はシュニッティック

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 「じゃあちょっと名前と出身と……あとあればお仕事お願いね」  女性は懐からメモのようなものを出してそれを板に挟む。すると板が浮いてどこからともなく羽ペンが飛んできた。どうやっているのだろうと思ったが言われた通り私の経歴をそのまま言う。  「……ふむふむ。ん?もしかしてセルン生態調査員?」  そう聞かれてはい、そうですと答える。すると女性はああ、ガイツゥアンのことですかと納得したように頷いていた。  「知っているってことは彼がどういう死に方をしたか分かりますよね」  私は何にも考えずにそれを聞いていた。しかし女性のびくりとしている表情を見て自分が今怖い顔をしていることを悟り顔を両手で覆う。  セルン生態調査員は基本いい死に方をしない。食われたり潰されたりなんてことはしょっちゅうある。だからセルン生態調査員はその死んだ人間の身元が分かっているならば家族にどのような死に方をしたか報告する義務がある。  『あなたの息子は我が組織に尽くして死にました、名誉ある死です。なんて言われて納得する輩がいるのはキレイ話だ。ならばそいつがどの程度の功績(・・)しかできなかった(・・・・・・・・)のを鮮明に語れば何か言い分が出てくる奴はいないだろう』  とセルン生態調査員のリーダー、ハンダイン=ジョットはそう言った。  大体の調査員及びその家族はそれに納得しないが、私はそれになるほど、一理あると思う。そうすればセルン生態調査員が悪いという八つ当たりのような抗議もなくなるし直接的な言い回しじゃない分、まだ足手まといではないということができるだろう。  それに一人の犠牲によって生まれる悲しみとは意外に小さいものなのだが余計な感情の伝播があるとそれは大きなものになる。実際私の村では一人死ぬとこれでもかと言うぐらい手厚く葬る。なんでかと言われたら、死んだから手厚く葬れば報われるだろうと村長は言う。  私は村のその風習が嫌いだった。なんで関係のない人間がいなくなったことでこっちまで悲しくなってしまわなければいけないのかと逆に苛立ちすら感じた。その答えを大人たちは知った風に口をそろえて言うのだ、死んで悲しくなるのは当たり前だ、と。  じゃあなんで私の両親が死んだ時、あなたたちは笑っていたの?  
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