第1巻 Another Predator 1話 僕の名前はシュニッティック

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 (かかった……!!)  私は掴まれていない手を広げ術式を展開させる。元から手の平に書いてあったわけではないが2PACを相手にしている生活を送っているとありとあらゆる理不尽な場面に出くわすことが多い。その中でも人よりも力の強かったり絡め手をしてくる2PACは一度捕まると確実に命を取られる(それで何人もの調査員が無惨に殺されてきたことか)。なので日常の本当にどうでもいいような場面でも瞬時のうちに相手から一時の油断を誘えるような術式を書く練習をしている。  (例えばこんなふうにね……!!)  書いたのは火と土の術式。やることは簡単、石を作って爪で相手の顔に向けて弾く。これはそれほど威力はないが相手の注意を一時的に他のところに向けることが出来る。大型の2PACにはこの手は使えないがそれより小さければ効果はある。パシンッという音が聞こえて親指に焦げたような熱い感覚がする。仕方ない、命に比べればこれぐらい安い。  「まったく……民間人に当たったらどうするの?」  弾いたと同時に腹に強烈な衝撃を食らった。そこから顎に一撃入れられて平衡感覚を保てず膝をつき前のめりに倒れる。男は猫を持ち上げるように私の服の後襟を軽々と持ち上げてこちらの顔を覗き込んだ。  「おお、流石セルンの良調査員。これぐらいじゃあ気絶まではいかないか」  私はキッと睨んで男を殴ろうと思ったがまだ頭がぐわんぐわんしていて拳を持ち上げようにも気持ちが悪くて上げようとしても実際に拳が上がっているのかどうかもわからなかった。  「……!!……?」  ならば……、そう思い口を開けて放せ!!と言うとした。けれど口が開かない。  「アハハ……やっぱり初見はそうなるよな。悪いけどちょいと顎の筋肉を固定させてもらった。大丈夫、一時的なものだ」  最初はそれに疑問を覚えた。そんな魔術を一度たりとも聞いたことが無いからだ。ほとんどの魔術を知っているナルシストな先輩でさえそれの話をしたことはなかった。  「まあ君は眠ってくれ。ここからは大人の時間だ」  それを聞いて突然眠気に襲われた。言われて数秒も経たないうちに私の意識は闇に呑まれた。  「…さてと次はあんただ、蝙蝠君」  そう言ってこっちの方を睨む男。一瞬だった、気付くと壁に叩きつけられていて体の骨がバラバラになっていた。これではもう飛ぶどころか呼吸の一つもままならなかった。
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