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傍らで眠る子犬のくせ毛を、高原はそっと撫でる。
今日の桜田は少し変だった。
道場に連れていって、じゃれているときは本当に楽しそうだった。
想定外に、自分も楽しんでしまったぐらいだ。
その後、宇賀神と川嶋が現れて、それからだ。
いつもどおり振る舞っているように見えて、どこか何かに気を取られているような、心ここにあらずのような。
抱かれることも嫌がらなかったけれど、最中ですら、何か様子がおかしかった。
突然涙を零したり、急に激しくして欲しがったり。
まさかとは思うけれど。
くしゃり、と彼は、そのくせ毛を指に絡めた。
胸がチクリと痛む。
彼の崇拝する、そのひとに。
心が動いた……のだろうか?
そのひとは、どんな相手も魅了する王者のオーラを持っているのだから、そうであっても不思議はない。
まして、桜田は。
どうやら強い男に惹かれるらしいことを、高原は知っている。
もしも、そうなら。
自分は、どうするだろう?
宇賀神は、決して子犬に振り向かないだろう。
彼にはもう唯一のひとがいる。
どうするのだろうか、自分は。
そして、子犬は。
高原は、知らず、ため息をついた。
指に絡まった柔らかい髪のように、この可愛くてたまらない子犬の心も、絡めとってこの手の中に捕まえておければいいのに。
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