671人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
「桜田君と高原さん、なんか不思議な組み合わせ」
今日はなんだかすごく優しく抱かれたから、終わった後も気を失うまでいかずに、宇賀神の胸の中でうとうとしながら会話をする余裕があった。
「でも、楽しそうだったね…すごいお似合いな感じ…」
すりすりと頬を胸に擦り寄せられ、宇賀神は、優しく抱くのもいいかもな、と思っていた。
そんなふうに甘えてくる川嶋が、鼻の下が伸びるほど可愛い。
もう一度したくなる、そこは堪える必要があるけれども。
しかし、そのひとは。
微睡みながら、とんでもないことを言い出した。
「龍」
「なんだ?」
「僕、龍に愛されるだけで幸せだから」
本当に、どうしたのだろう、この可愛いひとは。
いつも、実はすごくしんどかったのだろうか?
少し優しく抱いただけで、こんなに甘やかで幸せな気持ちにして貰えるなら、もっと早く川嶋の身体の負担に気づいてあげるべきだった。
鼻の下を完全に伸ばしきって、そんなことを考えていた宇賀神は、川嶋が続けた言葉を、だから、一瞬理解できなかった。
「だから、ちゃんと奥さん貰って、家庭を作っても大丈夫だよ?」
「なん、だって……?」
二人の間に流れていた甘やかな空気が、一瞬で凍りつく。
「お前、本気でそんなこと言ってるのか?」
川嶋の顎を掴み、顔を上げさせる。
彼は、宇賀神でさえ感情の読めない、完璧な無表情だった。
「なんで急に、そんなことを言い出した?」
苛立ちを出さないよう、堪えながら宇賀神は訊く。
どんな感情も見逃さないよう、その瞳を見据えて。
「僕たち、もう30になる」
川嶋は、淡々と言った。
「そろそろ、感情だけで行動するのは終わりにしないと」
その宇賀神を惹き付けてやまない綺麗な瞳で、真っ直ぐに彼を見て、その何度貪ったかわからない綺麗な唇から、残酷な言葉を紡ぎ出す。
「お前は、宇賀神会の跡継ぎなんだから…だから、自分がなすべきことをしなよ、龍」
子どもを、作らないと。
それは、僕ではできないことだ。
最初のコメントを投稿しよう!