プロローグ

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高原瑛太はいつも忙しそうだ。 昼間は、とあるIT関連の企業で社長秘書をしている。 その企業はいわゆるフロント企業というやつで、社長は関東全域の裏社会を仕切っている宇賀神会の若頭、宇賀神龍之介だ。 高原は、その宇賀神の側近中の側近である。 そのため、夜は夜で若頭の護衛も兼ねて、常に付き従っている。 だから彼は、恋人に会う時間を取るのがとても難しい。 少なくとも週に一度は休みを貰って会う時間を捻出しているが、先日ようやく身体の関係にこぎつけたばかりの二人にとって、週一の逢瀬はあまりにも少なく感じられた。 「あっ…だめ、やっ……やだぁっ」 桜田の悲鳴に似た声が響く。 高原は楽しそうに笑った。 「崇史、イイ声だ」 「あぁん、だめって…待って、やだってば!」 ああっ!! がくり、と桜田は頭を垂れた。 「もぉ…全然勝てねぇし」 彼らがいるのは、いつものホテル…ではなく、馴染みになりつつあるゲームセンターだ。 このところ、高原はホテルに行く前に桜田と外で夕食を食べ、腹ごなしと称してゲーセンに寄るのがお決まりのデートコースになりつつある。 「崇史は反射神経がいいのに、攻撃が単純だから見切られる」 彼はそう言いながら、悔しがる桜田を背後から抱きしめるようにした。 「実戦でもそうだとしたら、もう少し幅を広げたほうがいい…今度俺と手合わせするか?」 「え!マジ?したい!」 ぱっ、と桜田の顔が嬉しそうに綻んだ。 高原はそんな桜田にクッと笑う。 「本当に子犬だな…喜び方が」 「あんたと手合わせできるなら、もう犬でもいいや」 ぎゅっと自分を抱きしめる腕にしがみついて、鼻先をその腕にくっつける。 「なあ、いつ?いつしてくれんの?」 「崇史、その台詞は少しやらしいな」 スルのは今からだろう? そんなに盛るな。 耳許に甘く囁かれて、桜田は慌てた。 「なっ…そ、そーゆー意味じゃ…」 「待ちきれないなら、早くホテルに行こう」 手を握られて、指を絡められる。 「おねだりが上手くなってきたな」 「だからっ…違うって!」 言葉では、否定したけれども。 ……でも、違くないかも。 夜は、短い。 一緒にゲームをするのももちろん楽しいけれど。 それは友達とも楽しめることだ。 そのひととしか、しないことを、したい。 そのひとを、一番近くに、感じられること。 そんなことを思ってしまう自分が、まるで自分ではないみたいだ。 俺、調教…されてんのかも。
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