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川嶋暁臣は、気怠い身体で浴室に向かう。
彼が羽織っているのは、恋人のパジャマの上だけだ。
歩くと、身体の中から昨夜の名残が零れてきそうで、少し顔を顰めた。
「アキ、歩き辛そうだな…抱いていってやる」
後ろから、その諸悪の根元とも言うべき男に抱きつかれて、つん、と顔を反らした。
「いい。龍と一緒だと全然シャワーにならない」
「そんな可愛いコト言うな…ちゃんと綺麗に全部洗ってやる」
「嫌だ」
川嶋の声が少し尖る。
彼の恋人、宇賀神龍之介は残念そうに肩を竦めた。
感情がほとんど表に出ない川嶋が、本気で嫌がっていることを、その少ない情報だけで彼はすぐに察してくれる。
「わかった、今日はやめておく」
察してはくれるが、少し拗ねたような顔をして、しぶしぶといったふうに手を離した。
「高原…は今日は休みか」
ガラリと扉を開けて、そこに控えていた側近がいつもの顔ではなかったことに肩を竦める。
「酒井、朝食を取ってきてくれ」
高原の替わりに控えていた男に用を言いつけてそこを離れさせるのは、愛する川嶋の朝から色気駄々漏れな姿を見せたくないからだ。
「なるべく早く戻ってこいよ、お前が側にいないと落ち着かない」
壁一枚隔てた隣の浴室でシャワーを浴びるだけでこれだ。
溺愛っぷりが年々酷くなる気がする…。
川嶋は小さくため息をついて、浴室に向かった。
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