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宇賀神の腕に抱かれて、川嶋は瞼を閉じようとした。
処方された痛み止めのせいか、眠い。
「すぐ眠るか?」
宇賀神の声に、んー、と彼は、眠そうな声で答えた。
「まだ大丈夫…」
「明日でもいいんだが…話しておいたほうがいいかと思ってな」
ふあ、と小さな欠伸をして、川嶋は宇賀神を眠そうな瞳で見る。
そういう完全に素の顔をしている川嶋は、中学生の頃とあまり変わらない。
毎晩見てるのに、毎晩可愛いと思う。
「宇賀神会の、跡継ぎの話だ」
そう切り出すと、川嶋はさすがに目をパチパチさせた。
目を覚まさせようとしているらしい。
宇賀神は、そんな可愛い恋人の頭をそっと撫でる。
彼にしか見せない、可愛い仕草、可愛い表情。
普段とのギャップが堪らない。
「弟がいるんだ、俺には」
「は?」
川嶋は、何を言われたのかわからない。
「だからな、俺が生涯お前だけしか愛さないって決めたときに、親父にそれを言ったらな」
生涯お前だけ。
何度もそれに似た言葉を言われているけれど。
何度聞いても、嬉しくて泣きそうになる。
川嶋は、きゅっと宇賀神に抱きつく。
宇賀神は、その川嶋を柔らかく抱きしめる。
「俺に跡継ぎを望めないなら、自分でもう一人作るか、と言ってな」
弟ができたんだ。
「それ、僕、全然知らなかった…龍に弟が産まれてたなんて」
「教えてないからな」
知ったら会いたがるだろう?
だけど、今後も、お前と弟を会わせる気はない。
「なんで…」
川嶋の瞳が揺れる。
何故、会わせて貰えないのか。
宇賀神の弟なら、自分だって可愛がりたい。
年がいくつ離れているのかしらないけれど、きっと子どもの頃の彼と似ていて可愛いだろう。
宇賀神は、はあ、とため息をついた。
「弟が、お前によろめいたら困るからだ」
「……はあ?」
何、その理由。
それが、唯一の兄弟に会わせない理由?
てゆうか、いくつ離れてるのか知らないけど、少なくとも川嶋と宇賀神が出会った後に産まれたわけで、12歳以上は離れているはずだ。
そんな年の離れた、いわばまだ子どもが、よろめくって。
そう、言おうとした川嶋だが。
宇賀神は、言わせなかった。
「あいつは今13歳だ」
その歳には、俺はもうお前と出逢っていた。
もうお前を自分のものにしたいと思っていた。
「弟と俺は似てる」
親父もそうだけれども。
おそらく、お前に会えば、惹かれるはずだ。
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