volume1

6/18
前へ
/395ページ
次へ
イヤホンから流れてくる彼の音源は、決して複雑でもなく、テクニックを感じる訳ではなく。 ただ、ただ、心地よい。 「お客さん、着きましたよ」 彼の旋律の世界にドップリ浸っていた私は運転手によって、現実へ引き戻された。 タクシーから降りて時間を確認すると、打ち合わせ30分前。 まだ少しの時間がある。 彼が来るまで、ラウンジで彼の資料にまた目を通しながら、イヤホンを耳に付けた。 イヤホンからは聞きなれた刹那。 朝だけではなく、取材前には必ず聞く。 一種の験担ぎのようなモノだった。
/395ページ

最初のコメントを投稿しよう!

773人が本棚に入れています
本棚に追加