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イヤホンから流れてくる彼の音源は、決して複雑でもなく、テクニックを感じる訳ではなく。
ただ、ただ、心地よい。
「お客さん、着きましたよ」
彼の旋律の世界にドップリ浸っていた私は運転手によって、現実へ引き戻された。
タクシーから降りて時間を確認すると、打ち合わせ30分前。
まだ少しの時間がある。
彼が来るまで、ラウンジで彼の資料にまた目を通しながら、イヤホンを耳に付けた。
イヤホンからは聞きなれた刹那。
朝だけではなく、取材前には必ず聞く。
一種の験担ぎのようなモノだった。
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