エピローグ

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エピローグ

大翔を失った日から、あの時のエロ本は見るのも辛く、捨てることも出来ず、紙袋に入れて持っていた。大学を卒業し、この部屋で一人暮らしを始めた時もこの三段チェストに入れてそのまま触らずにいた。 諒太は引き出しを開けて紙袋を取り出す。 大翔が一生懸命に自分の写真を剥がしてくれたその雑誌。 諒太は胸の前、両手で紙袋を抱きしめた。 抱きしめられなかった大翔の代わりに。 テーブルの上のスマホが振動する。 画面を見て、諒太は声が震えないよう一度深呼吸してからタップした。 「もしもし、恵里奈」 「諒太君、引っ越し準備大丈夫?私、ほんとに今日行かなくてよかった?」 「大丈夫だよ。こっちは大したものないから。だいたい明日が大変なんだから」 「わかってる。先に行って拭き掃除しておくね」 「うん、明日頑張ろうな」 タップして電話を切る。 来月、恵里奈と結婚する。明日は新居となるマンションにまずは諒太が先に引っ越しするのだ。 恵里奈は大翔を失ってからもう一度恋する心を呼び覚ましてくれた存在。 ほんとうに大好きだ。 この世に生のある限り、呼吸してるその最後の瞬間まで、恵里奈を愛していると誓える。 でも、恵里奈への愛はこの世限定。 諒太は引っ越し用に準備していた緩衝材を手にした。そのエロ本を入れた紙袋ごと、大切に丁寧に緩衝材を巻き付ける。 いつかこの世を去るその時に、この雑誌も棺に入れてもらおう。 恵里奈や子どもや孫たちに、中を見られて笑われても構わない。必ず一緒に荼毘に付して欲しいと頼んでおこう。 天国に召されたら、大翔と再会する。 そして大翔が旅立つ時に持っていった俺の写真と、俺が持っていくこの雑誌を照らし合わせて、また涙が出るほど爆笑しよう。 天国では、俺が人生で最初にプロポーズした大翔と、永遠の時を過ごす。 だから大翔、それまで、もう一度会えるいつかの時まで、待っていてくれ。 諒太は緩衝材を巻き付けた雑誌にキスをして、再び引き出しの中に置いた。 終
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