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化学療法が始まって、熱が出てしんどいというラインメッセージ。
見舞い行っていい?
ちょっと無理。
そんなやりとりが続いた。
返信が来なくなった。
既読がついていた間は、それでも待っていた。
既読がつかなくなって俺は病院に行った。
『ごめんなさい。今は無理なの』
大翔のお母さんが俺を見て泣きながら言う。
普通は大丈夫。
でも可能性としてゼロじゃない。
薬で白血球が下がり過ぎ、免疫機能が落ちて何かの感染症に、その菌が全身に回って敗血症。
説明されても理解出来なかった。
面会は家族だけって、俺は婚約者なのに。
そう叫びたかった。
お母さんに俺の連絡先を教えた。
それからのことは、辛すぎてあまり覚えていない。
それからまた何日か後の未明の電話、もう意識もなかった。
葬式、大学の友達はみんな号泣していたが、俺は泣けなかった。
現実感がなくて、夢の中で浮遊しているような感覚。
泣いたのは何日も過ぎた後、あらためて大翔のお母さんから電話を貰った時。
『先に言えなかったけど、大翔が貴方の写真を持っててね。とても大事そうにしてたから、棺に入れて大翔に持たせたの。承諾もなしにごめんなさいね』
やっぱり大翔は俺の写真を剥がして持っていたのだと知る。
『ねえ諒太君』
『はい』
『大翔は貴方が好きだったんでしょうね』
『俺も好きです』
『ううん、友達じゃなく…いえ、なんでもないの、今までありがとう』
『俺も、俺も友達としてじゃなく好きです』
お母さんはもう一度ありがとうと言って電話は切れた。
スマホを握りしめ、俺は大翔を失って初めて泣いた。人はこんなに涙が出るのかという程に、泣いた。
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